過敏性腸症候群とは、英語ではirritable bowel syndromeと称されることから頭文字を取ってIBSと呼称されることもあります。
IBSは慢性的に腹痛、あるいは下痢、ときに便秘が続き、便秘と下痢を交互に経験することもあります。
なんと人口の1割前後にIBSの体質があるともいわれています。
そしてIBSをもつ多くの人は、病院を受診することもなく何とか生活しているのです。
IBSは生命を脅かす病気ではないものの、
腹痛や頻回の排便により、日常生活に支障をきたし、
なかには最大の悩みといえるほど苦しむ人もめずらしくありません。
ご存じかもしれませんが、朝の駅のトイレ(男性の大トイレ)は、いつも一杯です。
なぜ自宅で排便を済ませようと必死に頑張っても、駅につくと催してくる、
それもIBSの一つの形なのです。
過敏性腸症候群(IBS)は、原因が完全には解明されていません。
発症に関わる要因として、腸管の動きの過剰さ、過敏さ、
感染の後で発症する例、腸内細菌の変化、食物へのアレルギー、
一部に遺伝性、そしてストレスがいわれています。
腸は食べ物を消化吸収し、さらには不要なものを体外に排出すべく、
便を形成する臓器です。
排便のためには排泄物を肛門に移動させ無ければなりませんが、そのために腸は収縮運動を行います。
試験前、試合前、発表前などストレスによって緊張・不安が募ると腸の収縮運動が増え、
痛みを感じる人は多いと思います。
人間の腸は、第二の脳と呼ぶ人もいるほど、神経が張り巡らされています。
ストレスでIBSは悪くなりますし、IBS体質の人はストレスを抱え易いことも知られています。
自覚できる不安や緊張だけでなく、環境や状況に反応するのもIBSの症状です。
例えば、本屋は好きなのに本屋にいくと便意を催すのは、IBSが環境に反応しているのです。
食中毒や、感染性の腸炎に罹患した後にIBSになる人がいます。
その原因は完全にはわかっていませんが、
感染症の影響で腸内細菌が変化したり、
腸の損傷が関係あるのかもしれません。
慢性的に腹痛が続く
下痢が頻回の状態が続く
便秘が続く
下痢と便秘が交互に続く
お腹が張る
ガスが多い
がIBSの症状です。
何か月も、多くは何年も、この状態が続いていることがポイントです。
しかし他の病気(癌・腸炎・潰瘍性大腸炎・クローン病・その他慢性の腸疾患)でも
全く同じ症状がみられるので、症状からだけでは断定はできません。
何かひとつの検査でIBSと診断できる検査は存在しません。
症状からIBSを疑い、他の病気でないことを確認した上で診断がなされます。
過敏性腸症候群の診断基準としては、
ローマIII基準では直近3か月の間に月に3日以上腹痛等に悩まされている状態で、
かつ下記3項目のうち、2項目に該当する場合、過敏性腸症候群だと診断します。
・排便をすることで症状が緩和される
・症状によって排便の回数が増えたり減ったりする
・症状によって便が硬くなったり柔らかくなったり変化する
また、確定診断のためには他の症状がないのか、
大腸内視鏡検査や大腸造影検査にて確認します。
また、血液・尿・検便等の検査を行うケースもあります。
腹痛は様々な症状が考えられます。
過敏性腸症候群だけではなく、甲状腺機能異常症、内分泌疾患、
寄生虫疾患など、様々な症状の可能性も捨てきれませんので、
それらの症状も視野に入れた検査を行います。
上述したように過敏性腸症候群(IBS)の患者さんの多くは受診しません。
逆に言えば、受診する方は相当お困りであり、症状が重いと言ってよいでしょう。
他の病気による症状でないことが確認され、IBSと診断したら、
必ずしも治療しなくてはならないものではありません。
IBSがあったとしても、その症状のために日常生活が大きな影響を受けていなければ、
そのままにしたってかまわないのです。
IBSと診断された患者さんには
『この(IBSによる)症状さえなかったらなぁ・・とつくづく思いますか?』
と尋ねて、本当にそうなんです、という人には治療するようにしています。
それほどではないIBS患者さんは、
自分の症状が癌やその他心配な病気でないことがわかった段階で安心し、
薬は要らないという人も多いです。
IBS体質を持つ人が沢山いることを考えると、本当に薬が必要な人は、
数十人に一人くらいかもしれません。
しかしクリニックを受診するほど症状が強い患者さんは、
受診した数人に一人の割合で薬を使って治療しています。
まずは特定の食事に腸が反応していないか、確かめます。
乳糖不耐症、グルテン不耐症、その他特定の食物に反応する人は、
食事日記や行動日記をつけることを通じて見当をつけ、
一旦除去すると決めたら完全除去を試みます。
それで腹痛・下痢・膨満感が改善するのであれば、食事との関連が見えてきます。
過敏性腸症候群は腹痛に伴う排便異常で、
症状は細分化しています。
下痢が頻繁な患者もいれば、便秘で悩んでいる患者、
それら交互に襲われたりなど、
過敏性腸症候群の患者の症状は様々です。
そこで、患者の腹痛の種類に応じた内服治療を行いますが、
既往歴等によって投薬の内容が異なります。
経験的には、うつと不安を改善すると、IBSは劇的によくなることが多いです。
これは、うつと不安を改善する薬は、セロトニンを調整する薬であることは関係があります。
腸に大量の神経線維が存在しており、これら神経はセロトニンで動かされています。
セロトニンは脳では、うつと不安に関連しているので、
抗うつ薬はセロトニンを調整する作用を持ちます。
それだけではなく、IBSが不安とうつを増悪させ、
不安とうつがIBSを悪化させる悪循環が作用していることを日常診療のなかで感じています。
うつと不安を改善させると、悪循環が止まり、
人間本来の回復力が作用し始めるのだろうと推測しています。