ピロリ菌は、胃の粘膜表面に生息している細菌です。
正式名はヘリコバクター・ピロリといいます。
胃の中は、強い酸である胃酸が食べ物の消化を助けるために分泌されています。
そのため、通常の細菌はほとんど生息できません。
ピロリ菌も酸性の中では生息できないのですが、「ウレアーゼ」という酵素を作りだし、
胃の中にある尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、
アンモニアで胃酸を中和し、アルカリ性の環境にして胃の中で生存しています。
ピロリ菌はそれ自体が症状を起こすわけではありません。
しかし、放置することで、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こしたり、胃がんのリスクにもなったりします。
感染率は、乳幼児期の衛生環境と関係していると考えられています。
井戸水の飲用など、
上下水道が十分普及していなかった世代の人で高い感染率となっています。
ピロリ菌除菌治療が普及したことで、感染率は急速に減少傾向にあります。
しかし、いまだに50歳以上では50~70%ほどだといわれています。
環境の整った現代では、若い世代の感染率は低下してきており、
10代以下のピロリ菌感染率は10%以下であるといわれています。
しかし、乳幼児期に親族から口を介して感染している場合もあると考えられています。
現在の感染経路の主は、5歳までの小児期に両親や祖父母から、
口移しや同じ箸での食事などによる唾液感染だと考えられます。
ピロリ菌に感染したからといって、潰瘍や胃がんが必ず発症するわけではありません。
しかし、除菌しない限り、ピロリ菌は胃の中に住み続け、慢性的な炎症を起こします。
この慢性胃炎をヘリコバクター・ピロリ感染胃炎といいます。
長い期間炎症が続くと、胃の粘膜を防御する力が弱まります。
すると、ストレスや塩分の多い食事、発がん物質などの攻撃を受けやすい無防備な状態になります。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発症・再発に関して、患者様のピロリ菌感染率は80~90%ととても高い値です。
胃がんの原因は喫煙や食生活などの生活習慣そして遺伝の影響もあると言われています。
しかし、ピロリ菌がいない胃から発生する胃がんは1%未満とされており、
99%以上のほとんどの胃がんはピロリ菌と関連して発症すると考えられていますので、
ピロリ菌の影響は大きいでしょう。
ピロリ菌を見つける検査には大きくわけて「内視鏡を使わない方法」と
「内視鏡を使う方法」があります。
施設によって設備があるか否かにより、行われる検査は異なります。
・尿素呼気試験法
診断薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断します。
ピロリ菌が存在している場合に呼気に発生する物質の反応があるかどうかを調べます。
・抗体測定
血液や尿などを用います。
ピロリ菌に感染すると、抵抗力として菌に対する抗体をつくります。
血液中や尿中などに存在する抗体を測定する方法です。
・糞便中抗原測定
糞便中から、ピロリ菌の細菌毒素や菌体成分である抗原があるかどうかを調べる方法です。
内視鏡を使う検査法は、胃粘膜あるいは、胃の組織の一部を採取して診断します。
・鏡検法
採取した胃の組織を顕微鏡で観察してピロリ菌がいるかどうかを調べます。
・培養法
採取した組織を培養してピロリ菌が出現するかを観察する方法です。
・迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が出すウレアーゼという酵素があるかどうかを調べます。
日本人のピロリ菌感染者の数は約3,500万人といわれています。
多くのピロリ菌感染者は、自覚症状がないまま暮らしています。
ピロリ菌に関連する病気の治療や予防のために、
ピロリ菌に感染している方は除菌を受けるといいでしょう。
特に胃がんを予防するためにはピロリ菌の除菌が重要だと考えられています。
実際、早期胃がんの治療後に、ピロリ菌を除菌した患者様は、除菌をしなかった患者様と比較すると、
新しい胃がんが発生する確率は明らかに低くなっているというデータもあります。
ピロリ菌の除菌治療は薬を一定期間飲むだけで、
処方される薬は、抗生剤を2種類とその効果を高める胃酸分泌抑制剤1種類です。
合計3つの薬を1週間飲んでもらいます。
除菌が成功したかどうかの判定は、薬の服用から一定以上の期間をあける必要があります。
治療薬を飲み切ったあと、4週間以上あけてもらい、再びピロリ菌の検査を行います。
除菌治療は必ず成功するものではなく失敗することもありますが、
1回目の除菌で70%以上の人が除菌に成功します。
また、最初の除菌治療に失敗した場合は、抗生剤を変更し、2回目の除菌治療を行うことができます。
1回目と2回目の除菌治療を合わせた成功率は97~99%程度だといわれています。
抗生剤の効果で腸内の良い細菌も死んでしまうため、副作用で下痢を起こす人もいます。
しかし、これが出現したからといって中止する必要はなく、1週間は継続してもらうケースがほとんどです。
重篤な副作用はありませんが、不安に思う点があれば、主治医に相談しましょう。