私たちの体には「自律神経」という、体を最適な状態に保つために働く、
生命維持には欠かせない神経があります。
自律神経には、交感神経という体を活発に動かすときに働く神経と、
副交感神経という体を休めるときに働く神経があります。
この2つの逆の働きをする神経は、呼吸や血液循環、消化機能、体温調整などを担い、
自分の意思で意図的にコントロールすることはできず、自動的に反応する神経です。
例えば、暑いと感じたら発汗して体内の熱を調整したり、
食後に胃腸の消化機能を促したりするのも自律神経の働きです。
交感神経と副交感神経が適宜スイッチをオンオフとさせて、
これらが互いにバランスをとりながら、体の状態を調整しています。
それが最近はポリベーガル理論といって、副交感神経がさらに二つに分かれるといわれています。
失調とは、バランスを崩したという意味を表します。
つまり、ストレスなどが原因でこの交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまい、
自律神経が正常に機能しないことによって起こる様々な症状を、総称して自律神経失調症といいます。
自律神経のバランスが崩れる直接的な原因を特定することは難しいです。
しかし、間接的には、生活習慣の乱れやストレスが大きく影響していると考えられます。
不規則な生活によって自律神経が興奮し続けたり、睡眠不足が続いたり、
仕事上でトラブルがあって緊張状態が継続したりすると、体が耐えられる限界を越えてしまいます。
また、
更年期によるホルモンの乱れも影響します。
「心や体へのストレス」「ホルモンバランスの変化」「自律神経のバランスの乱れ」は
それぞれが影響し合っているため、どこかにトラブルが生じることで、他の箇所に影響が及びます。
不調が出ることで、更に日常生活に支障をきたしはじめると、他に症状が出たり、
既にある症状が更に重くなったりと、悪循環に陥ってしまいます。
ストレスの感じ方はその人が置かれている環境によって異なります。
調子のいいときには大したことはなくとも、別のタイミングでは大きなストレスになることも十分あります。
結婚や出産など、一見すると幸せそうに見えるライフイベントも負担になることもあります。
全身的な体の症状や、精神的な症状があらわれます。
例として、
だるい・眠れない・疲れが取れない・頭痛・
頭が重い・動悸・息切れ・めまい・肩こり・
のぼせ・立ち眩み・便秘・下痢・冷え・手足のしびれ・顔のほてり・胃の不快感・生理不順・
残尿感・情緒不安定・イライラ・不安感・うつ・
不眠・記憶力の低下・集中力の低下・
感情の起伏が激しくなるなどがあります。
いくつもの症状が交互に現れたり、同時に起こったりすることもあります。
ひとつひとつの症状は小さいかもしれませんが、重なることで大きな負担となっていきます。
自律神経失調症という病名は、医学的には正式な病名ではありません。
自律神経の乱れが関係していそうな症状があらわれているだけで、
血液検査の数値のように、明らかに異常がわかる目安があるわけではなく、
実際に自律神経の働きを正確に調べる検査方法はありません。
自律神経失調症で見られる諸症状は、ほかのさまざまな病気でも見られます。
そのため、体の疾患に伴って起きている症状ではないか、
うつ病や不安症の症状の一部として出現している可能性はないかなどを、
判断することが大事になってきます。
他の病気に関する検査を行っても異常が見つからず、生活習慣の乱れやストレスの状態、
ホルモンバランスの乱れなど、自律神経失調症を引き起こしやすい特徴が見られる場合に、
この病気が疑われます。
検査によって、体の疾患が見つかれば、その疾患の治療をまずは行います。
体のSOSのサインが自律神経失調症です。
体に異常が起こっていると不安になるのではなく、
体の正常な反応の結果だと捉えるといいでしょう。
症状は長引くこともありますが、今患者様の置かれている状況が、
体にとって負担となっているということです。
体に負荷をかけているストレスを上手に解消し、規則的な食事や睡眠、
適度な運動などを取り入れ生活習慣を正していきましょう。
また、必要に応じて薬による治療を行うこともあります。
投薬治療は主に2種類です。
・ホルモン剤などによる対症療法
対症療法とは現在表面化している症状を緩和させ、苦痛を和らげる方法です。
痛みがあれば鎮痛薬を、眠れないなら睡眠薬というふうに、症状に合わせて処方します。
・ストレスや心の面に対する薬
抗うつ薬を処方したり、不安な症状が強いときには一時的に抗不安薬を処方したりします。
自律神経失調症は、軽くなったりひどくなったりを繰り返すことがあります。
軽いときも、ひどい時も、症状に関わらず定期的に通院することが大切です。
なぜなら、症状を話していただくことで、患者様のちょっとした変化にも気づき、
的確な治療を進められるからです。
主治医とは気になることや小さな不調など、なんでも相談できる信頼関係を築いていきましょう。